大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 昭和24年(行)47号 判決

原告 美澄義明 外六名

被告 山口県知事

一、主  文

被告の昭和二十四年十月十五日附原告美澄義明、同岡崎清、同原田勉、同竹内照彦に対する免職処分はいずれも之を取消す。

原告繩田定、同黒瀬辰雄、同清水喜代春の請求はいずれも之を棄却する。

訴訟費用は之を七分しその四を被告の、その余は第二項記載の原告三名の各負担とする。

二、事  実

原告七名訴訟代理人等は被告が昭和二十四年十月十五日付原告七名に対して為した免職処分はいずれも之を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求めその請求原因として、原告七名はいずれもかつて知事の事務部局に属する山口県の職員であつてその内原告美澄、岡崎、原田、竹内の四名は吏員、原告繩田、黒瀬、清水の三名は雇員たりしものであつたが、被告は右年月日吏員たりし右原告四名に対し地方自治法附則第五条により官吏分限令第三条第一項第三号を準用し、雇員たりし右原告三名に対し山口県職員定数条令附則第三項によりそれぞれ免職処分をなしたが該処分は次の諸点において違法である。即ち、山口県は昭和二十四年七月七日右条例(同年山口県条例第三十一号)を制定公布したが、

第一、被告は右条例の制定に当り山口県行政刷新委員会に対し該条例の実施に際しては現実に免職処分はなさない旨説明して右委員会を欺罔し、もつて右条例の同県議会を通過せしめたものであるから無効である。従つて前記年月日当時山口県職員には定数はなくしたがつてまた過員もなかつたにもかかわらず原告等を免職したのである。右の主張が理由ないとしても

第二、(イ) 右条例の第二条には職員の定数は左に掲げる通りとする、一、知事の事務部局の職員、吏員二、二五九人、その他の職員、二、三二四人計四、五八三人と定めたが前記年月日当時における右職員の実人員は吏員一、八四七名、その他の職員二、八〇六人であつて吏員は過員となつていない。にかかわらず、これを官吏分限令により免職したのである。

(ロ) 山口県は昭和二十四年七月七日議会の議決すべき条例事項を指定する条例(同年山口県条例第三十号)を制定公布したがその第二項に知事の事務部局の職員中吏員を除く他の職員の分限に関する規定は議会の議決すべき条例事項として指定されているが右の分限に関する条例はいまだこれを制定せずその趣旨を蹂躙し直接右定数条例により違法にも雇員たる前記原告三名を解雇した。

第三、被告は原告七名を即日解雇したのであるから労働基準法第二十条第一項により被告は原告七名にそれぞれ三十日分以上の平均賃金(いわゆる予告手当)を支払うべきものであるにかかわらず之を支給していない。

第四、原告七名はいずれも業績最も優秀で県民の信頼する有能な職員である。そもそも官吏分限令にしても前記定数条例にしても過員を免職する場合は心身の病弱、勤務実績の不良等の事由あるものから順次なさるべきものであることは分限に関するこれ等法令規則の基本的精神である。原告七名に免職に値する何等の事由がないのにかかわらずこれを免職処分に付したことは前記法令規則の解釈を誤つたものである。

第五、山口県職員就業規則第四十二条は山口県職員は就業規則により退職(免官職の場合を含むことは同規則第三十八条により明かである)せしめられる場合本人の意思を尊重する旨規定し、職員の身分を保証しているが、これに対し前記定数条例は別段の規定を設けていないのであるから、定数条例により免職処分に付する場合も当然右規則は適用されるべきものであるにかかわらず、被告は原告七名の意思を尊重することなくいずれも之を免職した。と述べ、被告の主張事実中原告美澄、岡崎、原田、竹内の四名は昭和二十四年十二月十四日、原告繩田、黒瀬、清水の三名は同年十一月十六日いずれも被告より昭和二十四年山口県条例第三十七号の退職手当に関する条例にもとずく三十二日分以上の退職手当を受領したことは認めるが、これは予告手当ではない。何んとなれば原告七名の受領した退職手当は免職の予告を受けたものも然らざるも右条例により当然一様に支給さるべきものであり、右条例第四条に規定されている如く右退職手当から解雇の予告にかわる手当を優先差引くときは当然支給され、受領し得べき退職手当がそれだけ減額されたことになるのであるから原告七名は実質上予告手当の支給は之を受けていないものであると附陳した他原告七名の上述の主張に反する被告の答弁事実を否認し、以上によつて明かな如く、原告七名に対する被告の前記免職処分は違法であるから之が取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人等は原告七名の請求はいずれも之を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め答弁として、原告の主張事実中、前記第一、第二の(ロ)中、雇員たる原告繩田、黒瀬、清水の三名を解雇したことは原告主張の県条例第三十号の趣旨を蹂躙したものであるとの点、第三、第四、第五の諸点並免職が違法なりとの点は之を否認するが、その余の事実は之を認める。被告が原告七名に対し昭和二十四年十月十五日附免職処分をなした当時吏員は定数の範囲内にあつたが、その他の職員との合計数において前記定数条例所定の合計数に比較し過員となる(以上当事者に争のない事実である)ので吏員の減員を行うも何等違法の謂れはない。何となれば条例をもつて定数を規定したのは予算その他の都合上吏員及びその他の職員の合計数に拘束力をもたせたもので右条例に規定する吏員は地方自治法第百七十二条第三項にいわゆる吏員と同義のものではない。また前記昭和二十四年山口県条例第三十一号附則第二項第三項は吏員及びその他の職員の分限につき一括規定したものであるからこれは吏員以外の職員に関する分限につき条例をもつて別段の規定を設けるまでもなく当然職員の種別を問わず一律に適用されるものであるから雇員たる前記原告三名の免職も適法である。更に原告等のいわゆる予告手当については前記吏員たりし原告四名は昭和二十四年十二月十四日、雇員たりし原告三名は同年十一月十六日いずれも同年山口県条例第三十七号にもとずく退職手当の支給を受けたものであり、右退職手当には同条例第四条に則り予告手当が含まれておるのであるから原告等の主張は事実に反する。以上要するに原告等の本件請求は失当であるから棄却せらるべきものであると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告七名はいずれもかつて山口県知事の事務部局に属する同県の職員であつて、そのうち原告美澄、岡崎、原田、竹内の四名は吏員、原告繩田、黒瀬、清水の三名は雇員たりしものであつたが、被告は昭和二十四年十月十五日吏員たりし右原告四名に対し地方自治法昭和二十二年法律第百六十九号による改正前の附則第五条により官吏分限令第三条第一項第三号を準用し、雇員たりし右原告三名に対し山口県職員定数条例(昭和二十四年山口県条例第三十一号)附則第三項にもとずきそれぞれ免職処分に付したこと、及び右条例第二条に知事の事務部局の職員中吏員、その他の職員の定数はそれぞれ二、二五九人二、三二四人計四、五八三人と規定され前記免職処分当時の実員は吏員一、八四七人、その他の職員二、八〇六人、計四、六五三人であつたことは当事者間に争のない事実である。そこで免職処分の当否につき検討するに原告等はまず前記条例そのものが被告の欺罔行為により制定せられたものであるから無効である。したがつて山口県職員には右免職当時定数なくしたがつてまた過員ということもなかつた旨主張するが成立に争のはい甲第二、第三、第四号各証によればなるほど被告が前記行政刷新委員会に対し右条例を制定実施するも現実に免職処分はなさない旨説明し、被告のかかる意向が県議会にも伝達された事実は認められないでもないが右の一事により直ちに該条例自体が無効となると認めることはできない。

よつて更に進んで吏員たりし右原告四名の免職の当否につき按ずるに

一、官吏分限令に規定する他の事由にもとづき吏員たりし右原告四名を免職したのならば格別(このことは被告の主張しないところであるが)同令第三条第一項第三号を準用し前記条例による過員を理由として右原告四名を免職処分に付することは上述の如く本件免職当時吏員が前記条例による吏員定数に四名以上不足していた(この点当事者間に争がない)限りにおいて違法な処分と謂わざるを得ない。この点につき被告は前記条例第二条に規定する定数はすべて吏員とその他の職員との合計数に拘束力をもたせる趣旨で、立案立法されたものであり、地方自治法第百七十二条第三項にいわゆる吏員と右条例に規定する吏員とは同義語にあらずと強弁するが、そうしてまた証人白松寛、橋本正之の各証言中にも右の被告の主張に符合する証言はあるが、右主張は被告独自の見解であり、したがつてこれと同一の見解を開陳した右各証言も措信することができない。およそ、法はそれが制定公処されるやその立案、立法関係者の主観的意思を離れて客観的、合理的、合目的的に解釈せらるべきものである。前記条例もまた法である。同条例は右地方自治法の前示法条による吏員の定数を定むべき要請に基き制定せられたものと認められ、従つて同条例に規定する吏員とは地方自治法第百七十二条第三項にいわゆる吏員と同義語なりと解するのがより妥当である。

よつてその他の点につき判断するまでもなく前記原告四名に対する被告の前記免職処分はいずれも違法であり取消を免れない。

次に雇員たりし前記原告三名の免職の当否につき按ずるに

(一)  山口県は昭和二十四年七月七日議会の議決すべき条例事項を指定する条例(同年山口県条例第三十号)を制定公布したこと、その第二項に知事の事務部局の職員中吏員を除く他の職員の分限に関する規定は議会の議決すべき条例事項として指定されていること、右分限に関する条例の制定に先立ち被告が雇員たりし前記原告三名を免職したことはいずれも当事者間に争がない原告等は右の如く雇傭人等吏員以外の職員の分限に関する規定を受けずこれを免職することは違法であると主張するが、既に前記定数条例の制定あり上述の如く吏員以外の職員が免職当時右条例によれば三名以上の過員があり且(此の点当事者間に争がない)そのものの分限に関する条例の制定されていない場合においてこれを免職することは行政庁の自由裁量行為に属し右免職処分を目してこれを違法と難ずるのは当らない。

(二)  原告等はおよそ公務員を免職するに当つては心身の病弱、勤務実績の不良等の事由あるものから逐次免職すべきものであるが、原告等はいずれも業績最も優秀で県民の信頼する有能な職員であつた(原告等の勤務成績がおゝむね良好であり他に免職に値する特別の事由のなかつたことは証人中山為蔵、佐々木直之、高山常幸の各証言により認めることはできる)から原告等を免職した被告の前記処分は違法なる旨主張するが、前記定数条例にもとずき過員たる吏員以外の職員のうちその何れを免職するかはこれまた行政庁の自由裁量行為であるから右の主張もまた理由がない。

(三)  更に原告等は前記年月日即日解雇されたものであるから被告は労働基準法第二十条所定のいわゆる予告手当を支払うべき義務あるにかかわらず之が支払をなさないので本件免職行為自体が違法である旨主張するが、この点については原告等三名は昭和二十四年十一月十六日前記同年山口県条例第三十七号第四条所定の退職手当を受領し該手当は原告等の予告手当相当額以上であつたことは当事者間に争いなく、右条例第四条にはかかる場合は退職手当中にいわゆる予告手当を含むと明記してある以上仮令原告等主張の如く、同条によれば予告を受けた者も然らざるものもその支給さるべき手当額に差等がないことになろうともその故に右退職手当の外に予告手当を支払うべきであるとの主張は理由がない。

(四)  最後に、原告等は山口県職員就業規則第四十二条は山口県職員は就業規則により退職、(免職)せしめられる場合は被退職者被免職者本人の意思を尊重する旨規定しているが、前記定数条例はこの点につき別段の規定を設けていないので、本件免職処分に当つても当然右規則の適用があるべきにかかわらず、被告は右原告三名本人の意思を尊重しなかつたが故に免職処分は無効なる旨主張するが、右事実を肯認するに足る証拠は何等提出されておらない。以上要するに雇員たりし原告繩田、黒瀬、清水三名の本件請求は失当であるからいずれも棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担については行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八十九条に則り主文第三項記載の如く被告および原告等三名の各負担とする。よつて主文の通り判決する。

(裁判官 御園生忠男 住吉君彦 裁判官黒川四海は出張不在につき署名捺印することができない。 裁判官 御園生忠男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!